福島県立美術館友の会主催 美術教養講座
「 〜ルーヴルとパリの美術館を楽しむ〜 」

6回シリーズで開催した美術教養講座のダイジェストです
第1回 2005年11月20日
第2回 2006年 1月29日

第3回 2006年 3月12日
第4回 2006年 5月21日
第5回 2006年 7月 2日
第6回 2006年 9月10日


第1回

開催日時 2005年11月20日(日) 14:00〜16:00
開催場所 福島県立美術館講義室
参加者 友の会:会員29人、役員6人 計35人
美術館:早川学芸課長、荒木学芸員、吉村学芸員

1 はじめに

   講座の開催にあたり最初に友の会を代表して戸浪副会長より開催のご挨拶し、参加者全員が簡単な自己紹介を行いました。また、友の会の本講座担当より、講座の趣旨や今後の予定等について先の「美術教養講座のご案内」に沿ってご説明しました。

 

2 学芸員のお話し

   第1回は、学芸員の荒木さんから「パリの美術館案内」というテーマで、ルーヴルとパリの美術館の概要についてお話しいただきました。

   数多くあるパリの美術館について、パリの地図を見ながら、主な美術館の見どころや特徴などをわかりやすく説明いただきました。ルーヴル、オルセー、ポンピドゥーの3大美術館のほか、パリの個性的な美術館(オランジュリー、パリ市立近代、プティ・パレ、モロー、ドラクロワ、ピカソ、マルモッタン、ロダン、ブールデル、装飾芸術、クリニューなどの各美術館)を紹介いただき、パリの美術館の魅力と全体像がつかめました。

 

3 講座についてのディスカッション

   今後の講座を楽しく有意義にすすめるよう参加者によりディスカッションを行いました。毎回の構成を「学芸員のお話し」、「ゲストのお話し」、そして参加会員のお話しと懇談で進めることとしました。

   次回の学芸員のお話しについては、早川学芸課長さんより、「ルーヴルとくれば“ミロのヴィーナス”ですが、西洋美術の源である古代ギリシャからルネサンスそして現代までの縦軸の中で、“ヴィーナス”というテーマの横軸でお話しすることでどうでしょうか。」という提案がありました。次回のお話しが、大いに楽しみです。

   なお、ビデオ映像等の鑑賞や今後の講座内容については、参加者からいただいたアンケートやご希望に沿ってフレキシブルに進めていく予定です。

ゲストについては、候補者と日程調整のうえ、毎回お一人お招きする予定です。参加会員からのお話しも今後大いに期待したいところです。

 

※ 担当より

   今回の講座には、51名の多数の方のお申し込みをいただきました。あらためて、美術ファンのルーヴルやパリの美術館への熱き思いを感じます。初回ということで、まだ皆さん緊張していましたが、回を重ねるうちにお互いに打解けた雰囲気のなかで楽しい講座になるものと思います。担当としても、ご期待に沿えるよう努めますのでよろしくお願いします。

(友の会美術教養講座担当 貝沼、古溝)


第2回

開催日時 2006129日(日) 14:001630
開催場所 福島県立美術館講義室
参加者 友の会:会員40人、役員8人 計48人
美術館:早川学芸課長、ゲスト:安室加奈子さん

1 ゲストのお話し

   今回は、日大芸術学部NANA研究室で西洋美術を研究しておられる安室加奈子さんに「ルーヴルを歩く:フランス18世紀の絵画」というテーマでお話いただきました。

   最初に、安室さんが学生時代にパリに留学して青少年パスで3ヶ月間ルーヴルに通いつめた経験談からはじまり、ルーヴルの見どころや西洋絵画の見方について、パソコンとプロジェクターを使って分かりやすく楽しく説明していただきました。

ルーヴル鑑賞には二つの困難があり、一つは余りに所蔵作品と建物が大きすぎることで、それには自分なりのテーマをもって見ることが大事で、もう一つは印象派以前の西洋絵画の難解さで、それには絵画に表現されている約束事(例えばキューピットは必ず弓矢の持物を持っている等)を前もって知っていると良いということなどを教えていただきました。

   お薦めの参考図書等もご紹介いただき大変有意義なお話でした。なお、安室さんは、今後とも会員の皆様のご質問等に応じていただけるそうですので、お寄せください。

 

2 学芸員のお話し

   前回で予告がありましたように、早川学芸課長さんから「ルーヴルのヴィーナス」というテーマでお話いただきました。

   ギリシャ神話の愛と美の女神アフロディテ(ローマ神話でヴィーナス)に発するヴィーナスとは?という話しからはじまり、西洋美術のなかでヴィーナス像がどのように変遷し表現されてきたかをスライドを観ながら早川課長さんの味わい深い語りとともに解説いただきました。

   ルーヴル所蔵以外も含めてエーゲ海美術、ギリシャ美術、古代ローマ美術と辿って多くのヴィーナスを紹介いただきましたが、何分大きな流れのためルネサンス美術以降については、さらに回を改めてお話しいただくことになりました。

受講者の皆様からも“ヴィーナス像”について是非お話しいただきたと思いますのでよろしくお願いします。

 

※ 担当より

   今回も多数の皆様のご参加をただきました。会場がせまくご迷惑をおかけしますが、お互いに親近感を持てる距離感でこの講座をすすめたいと思いますのでご了承ください。回を重ねるうちにお互いに親しく言葉を交わし美術ファンどうしが知り合いになれたらいいですね。毎回、懇談の時間が不足気味ですが、今後時間配分に配慮して工夫しますのでよろしくお願いします。

(友の会美術教養講座担当 貝沼、古溝)


第3回

開催日時 2006312日(日) 13:301545
開催場所 福島県立美術館講義室
参加者 友の会:会員32人、役員5人 計37人
美術館:早川学芸課長、ゲスト:斎藤智子さん

1 学芸員のお話し

   前回に引き続き、早川学芸課長さんから「ルーヴルのヴィーナス」というテーマでその後編をお話しいただきました。

   
まず、エーゲ海美術、ギリシャ美術、古代ローマ美術までのヴィーナス像の変遷をたどり主な彫刻作品をスライドで鑑賞しながら、着衣の表現やコントラポストという美しいポーズについて解説いただきました。ルーヴルでの見所は「サモトラケのニケ」やなんと言っても「ミロのヴィーナス」であり、機会があればルーヴルでその絶妙な美しさをじっくり鑑賞してほしいということでした。

   ヨーロッパ中世においても、見方によってはサンタマリアやマグダラのマリアという形でヴィーナス像は変容し、やがてルネサンス美術へとつながり有名なボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」が生まれ、ダ・ヴィンチの「モナリザ」も一つのヴィーナスと言えるのではないかということでした。

   その後、ティツィアーノの「ウルヴィーノのヴィーナス」、ジャン・クーザンの「エヴァ・プリマ・パンドラ」等の作品へと時代はくだり、アングルの「泉」において近代美術のヴィーナス像になっていったということでした。

   西洋美術におけるヴィーナス像の変遷(メタモルフォーゼ)を分かりやすく解説いただき、膨大なルーヴルの作品群を鑑賞する際のひとつの視点となりました。

 

2 ゲストのお話し

今回のゲストは、朝日新聞福島支局の斎藤智子さんでした。斎藤さんは、もともと西洋美術を専攻され、東京本社文化部におられた時に日本での「ルーヴル展」誘致の中心となって尽力された経験をお持ちであることから、その経験談とともに日本における海外美術館展の裏話という普通は聞かれない興味深いお話しをお伺いすることができました。

まず、新聞社が主催する美術展は欧米ではきわめて珍しいので、そのことを欧米の美術館に理解してもらうのが大変だということです。そして、館長や学芸員と粘り強い作品貸し出しの交渉をするとともに、高額な地震保険や制約の多い航空機輸送等多くの困難を乗り越えながら初めて海外美術館展が日本で実現するそうです。

   海外美術館展の経費については、主催者としてリスクを負う場合や開催美術館が負担するケースなど色々あるそうですが、いずれも膨大な経費がかかり入場者の動向は大いに気になるということです。

  その他、宣伝広告、実際の開催運営、セレモニー、カタログやグッズなど多くのことがなされて海外美術展が開催されているという話でした。

   今回お話しをお伺いして、海外美術館展の舞台裏を知ることもできたと同時に、日本の美術館の在り方も考えさせられるものがありました。

 

※ 担当より

   今回でこの講座も全6回のうち前半を終了しました。今回参加者の皆様からアンケートで前半の感想や後半へのご要望をお寄せいただきました。ほぼ皆様からご好評をいただきましたが、後半の講座もより楽しく有意義なものとしたいと考えておりますので、よろしくお願いします。

(友の会美術教養講座担当 貝沼、古溝)


第4回

開催日時 2006521日(日) 14:001600
開催場所 福島県立美術館講義室
参加者 友の会:会員27人、役員8人 計35人
美術館:荒木学芸員、ゲスト:阿部泰宏さん

1 学芸員のお話し

今回は、「印象派とオルセー美術館」というテーマで学芸員の荒木さんにお話しをいただきました。オルセー美術館は、印象派美術の殿堂としてパリでは絶対に見逃せない美術館です。オルセー美術館所蔵品を中心に印象派美術の変遷や主な作品とその見方についてスライドで紹介いただきながらお話をいただきました。

マネの「草上の昼食」や「オランピア」、モネの「印象・日の出」や「ルーアン大聖堂」そして有名な「睡蓮」、ピサロの「赤い屋根」、シスレーの「ポール・マルリの洪水」、ルノワールの「ムーラン・ド・ギャレット」、ドガの「バレエの舞台稽古」などが取上げられました。

印象派美術の流れとそれぞれの画家の特徴や革新性について分かり易く解説いただき短時間のうちに「印象派のメインストリーム」の概観的な知識を得ることができました。

最近、改装工事が完成したパリのオランジュリー美術館のモネの円形の「睡蓮」は、現代のマルチ映像でのバーチャル体験を先取りしたようなものというお話しも興味深いものでした。

 

2 ゲストのお話し

   今回のゲストは、福島フォーラム総支配人の阿部泰宏さんでした。阿部さんは友の会の役員でもあります。6つの映画館を経営する超多忙な方ですが、今回その専門的な知識と経験を活かして「映画と美術」というテーマでお話いただきました。

   美術に関係する映画は数多くありますが、まずは画家の生涯やエピソードに関するものでは、ゴヤに関わる「裸のマハ」やモジリアニの伝記映画「モンパルナスの灯」、J・ルノワール監督の喜劇映画「草上の昼食」、フェルメールの「真珠の首飾りの少女」をモチーフにした同名の映画があげられます。  また、映画自体が絵画や美術のようになっているものでは、エリセ監督の「マルメロの陽光」、パラジャーノフ監督の「ざくろの色」、ヴィスコンティ監督の「山猫」等です。さらに画家とモデルがテーマとなっている「美しき諍い女」。美術館での90分ワンカットという映像もある「エルミタージュ幻想」。

  ルーヴル美術館の裏方をドキュメントした「ルーヴル美術館の秘密」。美術映画を撮影するという設定のゴダールの「パッション」。そして芸術的評価の高いタルコフスキー監督の「ノスタルジア」や音楽と映像美ドラマ「アンナ・マグダレーナ年代記」。・・・・等々。

   阿部さんからは、これらの映画を溢れるばかりの情熱と情報量で、且いくつかは実際にDVDの映像を観ながら面白く解説いただきました。

 

※ 担当より

   この教養講座も新年度に入り、引き続き全6回の後半に入りました。後半は、ルーヴルを離れて、印象派やパリのその他の美術館、現代美術等をとりあげます。どうぞお楽しみください。

   今回の映画のお話しは、いつも話題の映画ばかり観ている者にとっては、目から鱗の驚きでした。改めてDVDで観てみたいという思いにかられました。福島県立美術館の企画展カミーユ・クローデル展に合わせた同名の映画会も行われます。この映画もお薦めということです。どうぞご覧ください。

  ルーヴル美術館が舞台の映画「ダ・ヴィンチ・コード」もお見逃しなく!

(友の会美術教養講座担当 貝沼、古溝)


第5回

開催日時 200672日(日) 14:001600
開催場所 福島県立美術館講義室
参加者 友の会:会員24人、役員2人 計26人
美術館:吉村学芸員、ゲスト:田村奈保子さん

1 学芸員のお話し

今回は、「パリ・彫刻散歩」というテーマで学芸員の吉村さんにお話しをいただきました。現在、福島県立美術館では女流彫刻家クローデル展を開催中ですが、吉村さんがこの企画展の担当でもあり、ちょうど良い機会にお話を聞くことができました。

ご紹介いただいたのは、ロダン美術館、ブールデル美術館、ザッキン美術館、マイヨール美術館などです。吉村さんは、パリの彫刻がある美術館に何度か訪れたこともあり、実写のスライドを見せていただきながら、それぞれの美術館の魅力を解説いただきました。

ロダン美術館はロダンのすべてが観られますが有名なだけあっていつも混雑しているそうです。お薦めなのは、ブールデル美術館で、制作アトリエも残されており清閑で美しい中庭は雰囲気がありとても良いそうです。また、ザッキンは、キュビズム彫刻でピカソのロダン版とも言われていますが、日本での知名度は低いんですが、本人は親日派で画家のフジタとも親しく二科展にも出展したという興味深いエピソードも紹介されました。

   パリの美術館巡りが実現した際には、今回の彫刻のある美術館も絶対はずせませんね。

 

2 ゲストのお話し

   今回のゲストは、福島大学教授の田村奈保子さんでした。田村さんはフランス文学がご専門ですが、パリにお子様連れで長期留学されていたこともあり、今回その専門的な知識とご経験を踏まえて「暮らすようにパリを旅する」というテーマでお話いただきました。

   まず、日本人はフランス人にたいしては、やや敷居が高いというイメージを持ちがちですが、実はとても親切で英語でもきちんと応対してくれるそうで、文化や習慣の違いを理解し、ショップに入ったら必ずボンジュールと声をかける等、その国の常識を知って「暮らすように」旅することが大事ですよというお話がありました。

   お薦めの美術館は、オランジュリー、モロー、カルナヴァレ美術館等だそうです。オランジュリーのモネの大作は、館外には絶対搬出できないので、パリで必見とのことです。

   パリを旅する場合には、土日がほとんど休む店が多いとか、無料で楽しめる美しい公園等も多いこと、移動もバスをうまく利用すれば便利という情報もいただきました。

   最後に、簡単なフランス語の旅行会話のレッスンのおまけもいただきました。

   先生がパリ滞在中に写された多くの写真を見せていただきながら、分かり易く暖かい雰囲気で有意義なお話を聞くことができました。

 

※ 担当より

   終了後に、今後実際にパリの美術館への鑑賞旅行を考えておられる方々とお話し合いをもってみました。皆様方からは、季節の良いときに美術館巡り中心にアテンドがしっかりしている旅行をというご希望が多いように感じました。友の会はヴォランティア組織のため海外旅行を主催できる力はありませんが、今後何らかの形でパリの美術館巡りが可能となるかどうか検討したいと思います。
                             (友の会美術教養講座担当 貝沼、古溝)


第6回

開催日時 2006年9月10日(日) 10:00〜12:00
開催場所 福島県立美術館講義室
参加者 友の会:会員24人、役員2人 計26人
美術館:宮武学芸員、黒澤文雄さん

1 学芸員のお話し

今回は、「現代アートの見方」というテーマで学芸員の宮武さんにお話しをいただきました。現代美術というと一般には馴染みがうすく敬遠しがちですが、パリには現代美術の殿堂といわれるポンピドー国立近代美術館がありますので、今回のシリーズの締めくくりとして福島県立美術館の現代美術の企画展にも携れている宮武さんにお願いしました。

難解な現代美術をどうお話しいただけるか興味のあったところですが、宮武さんからは3人の現代美術アーチスト ― マルセル・デュシャン、アンディー・ウォーホル、ヨゼフ・ボイス ― に焦点をあてて、きちっと構成されたスライドを見せていただきながらとても分かり易く解説いただきました。

デュシャンは、モナリザに髭をつけたり、既製品をそのまま使う“レディメイド”と言われる作品等で作品制作の概念を変えた。ウォーホルは、ありふれた商品や芸能人のポスターのようなポップアートを大量生産し、従来のオリジナル感に疑問符をつけた。ボイスは、パフォーマンスアートにより行為そのものが作品で見る人を巻き込む“社会彫刻”という概念を編み出した。・・等々と3人の芸術はそれぞれ異なりますが、ともに真摯に時代と向き合い新しい芸術を生み出したということでした。

そうした中で、現代美術を鑑賞する上では、表面の難解さに目を取られがちだが、一歩引いて作者の制作意図に目を向けるとまた違ったものが見えてくるというお話をいただきました。

お話しの最初と最後には、パリのポンピドーセンターの概要の情報も入れていただきとても有意義なお話をお聞きすることができました。

2 ゲストのお話し

   今回のゲストは、福島県観光連盟事務局長の黒澤文雄さんでした。黒澤さんはかつて旅行会社におられパリへも多く行かれていることから「パリの美術館巡りのコツ」というテーマでお話しいただきました。

   パリへの旅と美術館見学等で留意したいポイントとしては、シーズンのオンオフにより格差があること、現地滞在曜日により休館日や交通事情が変わること等をよく考えて計画したほうがよいということでした。さらに旅行商品を選ぶ際は、経験や語学力等を総合的に無理のない手段で選ぶことが大事で、事前に季節、経費等の違いの情報を集めての検討が必要ということでした。また、美術館巡りには、パリの主要な美術館で使えるカルトミュゼを事前に手にいれておくと良いとか、便利で安心な交通手段などの実用的な情報もいただきました。

   黒澤さんからは多くの旅行資料をご持参いただき、そして何よりもプロとしての多くのご経験を踏まえたお話しでしたので、今後パリの美術館巡りを考えている人にとっては大変貴重なお話しでした。また、合間には、参加者からも経験談をお聞かせいただき、和やかな雰囲気の中で楽しいお話を聞くことができました。

※ 担当より

本講座も今回で最終回となりました。「ルーヴルとパリの美術館を楽しむ」というテーマで約1年間6回にわたり、古代美術、ルネサンス、印象派、現代美術等の見所をざっとおさらいしてみましたが皆様お楽しみ頂けたでしょうか。この間、美術館の学芸員、ゲスト講師の皆様に大変お世話になりありがとうございました。また、何よりも熱心にご聴講いただきました参加者の皆様に感謝申し上げます。皆様方の美術の楽しみに少しでもお役にたつことができましたら、担当として幸いです。

                  (友の会美術教養講座担当 貝沼、古溝)